COLUMN

2018年5月21日

長く愛される空間をデザインする Vol.3
色合いや質感を活かした空間づくり:ロッテ免税店


デザイナー 太田裕美子
PHOTO:下村康典
ロッテ免税店(関西国際空港)
株式会社乃村工藝社のクリエイティブ本部のデザイナーとして
大阪の阪急三番街など多くの大型商業施設の内装に携わっている太田裕美子さん。
スタイリッシュでありながら、なおかつ長く愛される空間づくりのヒントをうかがいました。
関西国際空港と東急プラザ銀座で手がけられているロッテ免税店についてお聞きします。ひとことで「免税店」と言っても化粧品、時計、お酒、など扱われる商品やブランドはさまざまです。関空のLOTTE DUTY FREE by KAAでは、どのように進められましたか?
太田さん(以下:太田)
ここは、免税店のいろいろな商品のなかでも特にコスメを重点としたエリアでした。コスメについては女性としての感覚がありますし、出店ブランドのことも元々知っていました。一般的には、免税店のベースとなる環境設計としては、どんなテナントが来ても対応できるようにということで、白と黒でスキッとしていて近未来的だったりするケースが多いですね。でもここでは、そのイメージを反転し、「ロッテのお店」というひとつの器のなかにはいっていただくような感じで、やさしいピンクとゴールドをカラースキームとして使っています。女性がかわいいと思えるような色とか質感って本質的にあると思うんです。このデザインはロッテ免税店銀座(東急プラザ銀座店)にも受け継がれてコスメゾーンの核になっています。
PHOTO:下村康典
ロッテ免税店(関西国際空港)
PHOTO:Nacāsa & Partners Inc.
ロッテ免税店(東急プラザ銀座)
空港での内装デザイン・施工ということで大変なことはありましたか?
太田
一般的な商業ビルと比べてデザイン上の制限がとくに厳しいわけではないのですが、工事が大変でした。制限区域での工事なので、毎回現場確認に行く時は海外旅行のようにセキュリティゲートをくぐっていくわけです。工具やビスのひとつひとつまで毎回すべてが検査され、出入りの数があわないといけません。工事中に小さなビスひとつが落ちても「絶対に探すんだ!」という緊張感がありました(笑)。クライアントである韓国側とも確認を取りながら、交流も深めながら進めていった、とても印象に残っている案件です。
銀座店と関空店、それぞれに天井部分の照明など、雰囲気も華やかですね。
太田
ありがとうございます。この関空のLOTTE DUTY FREE by KAAでは、上部にあるゴールドのアールの照明、天伏図でみると、ロッテさんの「O」の文字になっているんです。これもちょっとした遊び心ですね。
PHOTO:下村康典
ロッテ免税店(関西国際空港)
空間づくりの参考にしていること、特に気をつけてアンテナを張っていることはありますか?
太田
集中的に仕事をしたあとで時間をつくって海外に行ったりと、旅に行くのが好きです。海外の街並みやデザインは参考になっていますね。環境設計をするようになってからは特に、「こういう工夫でこの空間のベースができているんだ」という気づきが多いです。たとえば、出隅の納まりひとつとっても、空間の上質さが変わってきますよね。かっこいい物だけをつくって集めてもかっこよくないんです。デザインのすべてはバランスだと考えています。環境設計を手がけることが多いからかもしれませんが、ベースが整ってはじめてデザインがひとつできるんです。お客様のお考えやご意向をすべて吸収してそれを解決することなしには、プロジェクトはスタートしません。自分たちのデザイン設計を押しつけることもしませんね。それが優しいデザインにつながっていくかなと考えています。環境設計は10年や20年という長いスパンで存在するものなので、新鮮さだけでは空間が長続きしないんです。慣れたときに居心地がよくなるベースづくりを大切にしたいですね。
デザインの原点とこれからの目標について教えていただけますか?
太田
いまは環境設計が多くて、多くのひとと関わって悩みを解決して夢をかなえていくというプロセスが楽しいです。でも実は、私にとってはデザインのお仕事の原点はデコレーターなんです。装飾品や雑貨が好きで、よくお店に行ったりしていました。そういう意味では、原点に立ち返るということでもないんですが、ちいさな世界のお仕事も大事にしていきたいです。このジャンルの仕事をしたい、という気持ちよりは、何でもしたいと考えていますね。

PROFILE

太田裕美子 YUMIKO OHTA
デザイナー(株式会社乃村工藝社)
大阪府生まれ。店舗ディスプレイ・デザイン会社での勤務とフリーランスを経て、株式会社乃村工藝社へ入社。飲食・美容などの店舗のほか、阪急三番街など大型の複合商業施設のプロジェクトを手がける。DSA 日本空間デザイン賞2017、日本サインデザイン賞(SDA Award)など、受賞多数。
聞き手
牧尾晴喜 HARUKI MAKIO

建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。

このコラムでは、人々が集う居心地のよいインテリア空間をつくりだしている、国内外で活躍されているデザイナーへインタビューをしていきます!

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連載記事

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