COLUMN
2020年11月9日
建築とデジタルを融合した、
インタラクティブな空間づくり Vol.3
与条件に応じたプログラムと建築:
綾瀬の基板工場、魚津埋没林博物館
建築家 浜田晶則
綾瀬の基板工場
魚津埋没林博物館
複雑な情報を細やかに制御する手法で建築やデジタルアートの設計を手がける、浜田晶則さん。
チームラボアーキテクツのパートナーとして手がけられた作品や
最近の建築作品についてお話をうかがいました。
さまざまな賞にも輝いている、「綾瀬の基板工場」(神奈川県厚木市)についてお聞きします。「住宅のような工場」をテーマとされていて、用途も構造も混在している面白味がありますね。このような建築が生まれた経緯は?
浜田さん(以下:浜田)
最初は純粋に工場として設計していて、スパンを大きく飛ばして機械などを配置しやすいようにしていました。設計途中で他の用途にも使えるようにしたいという要望があったので、木で立体トラスを組んだ構造はそのまま残し、設計中にコンバージョン(用途変更)を行ったという特殊な事例です。増築を考慮して、明快なモジュールのユニットとして展開し、アダプティブな仕組みをつくっていたので、プログラムを組んで設計しておけば、使用用途などの条件が変わってもすぐに切り替えて対応できます。それは設計中も使用後も同様に変更に対応できる冗長性があるといえます。現在は食堂としての用途のほか、パン教室やパソコン教室、商工会議所のパーティなど、多岐にわたる使い方がされています。
綾瀬の基板工場
オリジナルの家具も設計されていますね。
浜田
家具もすべて同じモジュールで設計しているので、使う用途によって自由に組み合わせることができます。作り方自体はシンプルで、テーブルは鉄のフレームに天板をのせて、裏からビス留めしただけのものです。
綾瀬の基板工場
次に、人気のケーキ店「KININAL」も入居している富山県「魚津埋没林博物館」の改修についてお聞きします。
浜田
埋没林というのは海の中にスギの林が埋没したもので、国の天然記念物にも指定されています。そこで、海と森をつなぐことをコンセプトに、水盤の上部にデッキを増築し、室内の床と水上デッキがつながっていく設計にしました。室内の壁面などの木材には富山県産のスギを使用しています。また、漁業が盛んな町でもあるので、照明器具は浮き玉のようなものにし、街全体の物語が感じられる場に設計しています。
魚津埋没林博物館
最後に、浜田さんが建築を志すようになったきっかけと、これからどのような建築をつくっていきたいかをお聞かせください。
浜田
父が建築設計をしていたので、その影響は大きかったですね。建築はその外部や内部の人々に様々な関係性を生み出します。そこにいて楽しくなる、他者とコミュニケーションが取りたくなる、一人になれる、わざわざ遠くまで行きたくなるなど、そのような特別な衝動や体験をつくることができたらいいなという想いがありました。
大学院では建築家の千葉学さんの研究室で都市やオフィスの研究をし、設計について学びました。また、建築家の隈研吾さんが着任されたばかりで、デジタル教育を進められていました。その頃から、デジタルへの興味が深まったんです。重たくて動かない建築を、デジタルを使ってどうやって軽く、やわらかくできるかを考えるようになる転機でしたね。
いま設計しているものの一つは、ほぼインフラフリーで成立する建築物です。建築自らがエネルギーを賄い、サービスはすべてプログラムで管理される。これを都心ではなくインフラが未整備の辺鄙な場所でつくろうとしています。ロボット技術や人工知能を建築に適用することで、建築が自ら新陳代謝して生きながらえていくという実験棟ですね。この仕組みが実現すれば、保存すべき建築や、問題となっている地方の空き家などにも応用できると考えています。僕は、未来の建築は生命のようになると考えています。それをここ数年で事業にしながら実現していきたいです。
PROFILE
浜田晶則AKI HAMADA
建築家
1984年富山県生まれ。東京大学大学院修士課程修了後、Alex Knezoとstudio_01を設立。2014年に浜田晶則建築設計事務所を設立し、同年からteamLab Architectsパートナーを務める。2014年~2016年、日本大学非常勤講師。主な作品に「綾瀬の基板工場」、「魚津埋没林博物館KININAL」など。複雑な情報を細やかに管理・制御する手法を用いて、建築やデジタルアートの設計を行っている。
聞き手
牧尾晴喜HARUKI MAKIO
建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。
このコラムでは、人々が集う居心地のよいインテリア空間をつくりだしている、国内外で活躍されているデザイナーへインタビューをしていきます!
COLUMN
連載記事
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インタラクティブな空間づくり(全3回)