人間工学に見る最適な家具寸法(全3回)

-快適なイスの見つけ方-Vol.2 日本のインテリアの歴史
-インテリアの始まり
そもそも「インテリア」や「デザイン」という概念ももともと日本にはなく、欧米から入ってきた思想です。
「デザイン」という言葉は、戦前は「図案」と呼んでいました。その後、戦後に「意匠」という言葉に変わり、1960年代になって初めて、通産省の中に「デザイン課」が誕生したことで「デザイン」という言葉が官庁用語として認められました。しかし、日本には家具やテキスタイルの技術や伝統がなかったわけではありません。日本にも、「工芸」という伝統技術は存在していました。しかしそれは、ごく限られた上流階級の人たちの間で使われていたもので、庶民の生活とはまったく無縁のものでした。
そして1960年代後半に入って住宅産業が隆盛を極めると、それまで通産省の雑貨課の所轄になっていた家具、テキスタイル、照明、壁装といった、今で言うインテリア業界の13業種をまとめて新しい魅力ある名称に変えてイメージを一新しようという動きが出てきました。
そこへ浮かんできたのが当時テキスタイル業界で使われ始めていた「インテリア」という言葉で、1970年になって初めて、全国の工業学校の木材工芸科の名称をインテリア科と改称し、1973年にようやくインテリア産業振興対策委員会が設置されました。
 
-インテリアコーディネーターの誕生
インテリア産業振興対策委員会は、1976年の報告書の中で「住空間はトータルのシステムを持つことによって、はじめて質的に向上する」という提案を行い、1983年にようやくインテリア産業協会によるインテリアコーディネーターの資格試験が実施されました。
インテリアコーディネーターの資格は、1970年代から始まった住宅産業の“流通のための”専門家として、通産大臣が認めた資格でしたが、住宅産業だけではなく、公共建築や商業施設などの大空間のインテリアの“設計を主目的とする”プランナー制度を創設すべきだという意見が出て、1987年にインテリアプランナー制度が誕生しました。しかし当時は、インテリアは建築の一部であり、建築士という国家資格を持った人材が揃っているため、わざわざインテリアの専門家を育成する必要はない、といった反発の声もあったようです。
 
-イスは座るための補助具
話が少しそれてしまったので、人間工学の話に戻しましょう。
私たちが扱う家具の話で言うと、やはり家具の中で最も人間工学が活用されるものがイスになります。日本でいちばん最初にイスの導入がされたのが学校と軍隊であると言われています。特に学校で使うイスと机の高さの研究は、長きに渡って改良が行われてきました。学校用家具のJIS規格はこれまで何度か改正されていますが、それに一役かっていたのが人間工学でした。
その中でも意外だったのが、実は上半身について言えば人は立っているときのほうが自然で、座ったときのほうが上半身には無理がかかっているという考え方です。人間が他の哺乳類と大きく違うのは、二足歩行をするということです。人は四足歩行から二足歩行へと進化する過程の中で、常に重力の影響を受けており、それに適応するように頭の位置、背骨の形、骨盤の形状などが少しずつ形を変えて現在の姿勢ができあがりました。つまり、人は座っているときより立っている時のほうが自然であるように体の構造ができており、実は座ると内臓が圧迫されて苦しい姿勢になっているのです。
ただし、確かに座った時は下半身については楽になるので、座った時は、下半身は楽になりますが上半身には無理がかかり、立った時は、下半身は疲れますが上半身はより自然な姿勢で楽になります。これは、特に地べたに座ったときに最も無理がかかり、座った時になるべく自然の状態に近い形に戻すための補助具となるのがイスの役目なのです。
 
では、良いイスとはどういうイスか?次回は、その見分け方と選び方についてお話します。

参考文献:株式会社ガイアブックス発行 新装 インテリアの人間工学 / 小原二郎監修 渡辺秀俊、岩澤昭彦著