業務用家具のすべて(全3回)

-業務用家具の歴史から豆知識まで-Vol.2 メーカーとブランド
-工芸品から量産品へ
第1️回では、業務用家具とは何か?について書いてきました。ここで、現実的な話に戻しましょう。
現存する家具メーカーで最古のメーカーのひとつとして有名なのが、トーネット(Thonet)社です。トーネットは1819年に創業し、ミヒャエル・トーネットがブナの無垢材を曲げるという革新的な技術により、現代でもイスの定番となっている「No.14」の工業生産に成功しました。No.14は後に「ウィーン・コーヒー・ハウス・チェア」と呼ばれたように、ヨーロッパ各地の飲食店で採用され、量産された業務用家具の先駆けと言えます。
今でも「家具職人」と呼ばれる人が存在するように、もともと家具は「職人」によって手作りされていました。トーネットは曲木を始めとして、1930年代にはマルセル・ブロイヤーなどで有名な鋼管家具の量産を開始しています。
 
-海外の家具ブランド
このトーネットのウェブサイトを見ていただければ分かるのですが、「業務用家具」や「ホームユース家具」といった概念は日本独特の考え方である可能性が垣間見えます。
トーネットの納品事例を見てみると、同じ家具が住宅やホテル、飲食店など様々なところで使われていることが分かります。実はこれはトーネットに限ったことではなく、スイスの有名な家具メーカー、ヴィトラ(Vitra)でも同じです。ヴィトラは1950年創業ですが、元々は創業者であるウィリー・フェルバウム氏がグラエター社という店舗什器を扱う会社を引き継いでスタートしました。その後、フェルバウム氏がイームズのプライウッドのイスに魅せられて、イームズがデザインした家具のヨーロッパでの製造販売権を取得します。その後はマリオ・ベリーニやアントニオ・チッテリオ、アルベルト・メダといった有名な建築家やデザイナーを起用したオフィスチェアを多く出し、ヨーロッパを始めとして世界的に有名なオフィス家具ブランドとして知れ渡るようになります。しかし、このヴィトラもトーネット同様、先程のイームズのイスを始めとして、今ではオフィスだけではなく、飲食店や学校、住宅など、様々なところで使用されています。
たしかに、ミノッティ(Minotti)やアルフレックス(arflex)など、ホームユースに強いブランドというのは存在します。しかし、マジス(Magis)やヘイ(HAY)、ムート(muuto)など、多くのブランドはいわゆる、家具の「ジャンル」分けをしていない印象があります。
-変化した日本の市場
そして、この流れは、実は日本でも広がってきています。
主に日本の建築やインテリアを紹介しているウェブマガジン、architecturephoto.netTECTUREなどのウェブサイトに掲載されている最近の事例を見ると、飲食店や大学などに、元々はホームユースの印象が強かったKARIMOKU NEW STANDARDやマルニ木工の家具が納品されているのをよく見かけるようになりました。かく言うSOGOKAGUも業務用家具メーカーと言いながら、実際はオフィスでの売上も非常に多くなっています。佐賀県の家具メーカーである平田椅子製作所が展開するARIAKEというブランドがありますが、同じ商品なのに海外ではホームユースで使われているにも関わらず、国内ではオフィスで使われることが多いそうです。おもしろいですね。
さて、ここで、あることに気付いた方はいらっしゃいますでしょうか?これまでの文章で、家具を製造販売する会社のことを「メーカー」と「ブランド」という言葉の使い分けをしてきました。
 
-「メーカー」と「ブランド」
「メーカー」というのは文字通り製造業を意味し、「ブランド」は「商標」と訳されるように「メーカー」が展開する商品群や銘柄を意味します。
先程の例で言えばカリモクや平田椅子製作所は「メーカー」、KARIMOKU NEW STANDARDやARIAKEは「ブランド」ということになります。では、トーネットやヴィトラはどうでしょう?いずれの企業も家具を製造販売している「メーカー」ですが、日本では「家具ブランド」として紹介されることが多いように思います。
ブランドと言うとエルメスやグッチなど服飾系のブランドを想像しますが、海外の家具ブランドはデザイナーやクリエイティブディレクターを起用し、明確なブランドコンセプトを持っている企業が少なくありません。また、最近ではARMANI CASAやFENDI CASAといったように服飾系のブランドがホームユース家具のブランドを立ち上げたり、最近ではトゥーグッド(toogood)のようにファッションデザイナーが家具やインテリアのデザインを手掛けたりと、ファッションとインテリアの垣根がなくなってきています。
特に業務用家具の場合、なるべく丈夫で、かつ安価な商品が好まれるため、かつてはどのメーカーにも共通するデザインの「型」がありました。SOGOKAGUでは、インテリア業界のこのような流れに倣い、これまでの業務用家具の「型」に縛られないデザインと商品開発に力を入れています。

さて、次回は、業務用家具とホームユース家具の明確な違いについて解説していきます。