COLUMN

2019年6月28日

長く愛される空間をデザインする Vol.1
多様なテナントのための和の雰囲気を活かした環境設計:阪急三番街 うめ茶小路


デザイナー 太田裕美子
PHOTO:下村康典
阪急三番街 うめ茶小路
株式会社乃村工藝社のクリエイティブ本部のデザイナーとして
大阪の阪急三番街など多くの大型商業施設の内装に携わっている太田裕美子さん。
スタイリッシュでありながら、なおかつ長く愛される空間づくりのヒントをうかがいました。
まずは、大阪の阪急梅田駅併設の商業施設、「阪急三番街 うめ茶小路」についてお聞きします。ビジネスやレジャー、訪日観光客などさまざまな方が訪れるエリアでの大きな施設ですが、このプロジェクトはどのように進みましたか?
太田さん(以下:太田)
阪急三番街の北隣にあった「阪急古書のまち」が移転するほか、メイドインジャパンにこだわった物販店があわせてオープンすることになり、このプロジェクトがスタートしました。移転計画当初からあったリクエストは「和の雰囲気」。阪急古書のまちでは、商業的な規模はそれほど大きくなくても、独特のストーリー性をまとったお店が多く、また、骨とう品や書物など貴重な品々が扱われていました。ただ、以前はそういった素晴らしさまで、店外のお客様にじっくりと見ていただける環境ではなかったんです。そこでイメージを一新するためにショーウィンドウをたくさん用意し、町家の雰囲気で店外を通る人々に気軽に商品を見てもらえるようにデザインしています。
PHOTO:下村康典
阪急三番街 うめ茶小路
PHOTO:下村康典
阪急三番街 うめ茶小路
日本伝統の「組子」がデザインに取り込まれていて、木目を基調にした落ち着きと華やかのある空間になっていますね。
太田
ありがとうございます。ほかにも、設計当初は江戸時代の門やちょうちんなど、伝統的な要素を取り入れる案もあったんです。ですが、「阪急らしさ」として確立されているイメージは上品さで、そのエッセンスを具現化するためのマテリアルを模索していくなかで、組子を使うことに決まりました。
PHOTO:下村康典
阪急三番街 うめ茶小路
古書や切手のほかにも、女性向けのシューズをあつかうお店など、テナントは多岐にわたりますね。雰囲気の統一はどのように?
太田
このプロジェクト全体を売り場づくりという点からみると、物販と古書の2つに分かれていました。入っていただくテナントのほうは、扱っているものは多様でも「メイドインジャパン」という共通項があるテナントで、内装も和の雰囲気を意識した構成にしてもらっています。そのように緩やかな内装管理によってテナントさまにご協力いただき、全体の雰囲気を統一することができました。
こういった大きな改修では、テナント部分はもちろん、ちょっとひと休みできるレストスペースも大切になりますね。
太田
そうですね、買い物の付き添いで来ているような方にとっても、ゆっくり休めるようなスペースが必要になります。リラックスできる開放的な空間のために家具を用意するわけですが、パブリックスペースでリラックスしすぎてもいけないので(笑)、たとえば寝転がったりはできないようにリブ形状に工夫を取り入れたりしています。
PHOTO:下村康典
阪急三番街改修のパブリックスペース

PROFILE

太田裕美子 YUMIKO OHTA
デザイナー(株式会社乃村工藝社)
大阪府生まれ。店舗ディスプレイ・デザイン会社での勤務とフリーランスを経て、株式会社乃村工藝社へ入社。飲食・美容などの店舗のほか、阪急三番街など大型の複合商業施設のプロジェクトを手がける。DSA 日本空間デザイン賞2017、日本サインデザイン賞(SDA Award)など、受賞多数。
聞き手
牧尾晴喜 HARUKI MAKIO

建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。

このコラムでは、人々が集う居心地のよいインテリア空間をつくりだしている、国内外で活躍されているデザイナーへインタビューをしていきます!

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