人間工学に見る最適な家具寸法(全3回)

-快適なイスの見つけ方-Vol.3 イスのプロトタイプ
-良いイスのポイント
では、良いイスとはどのようなイスでしょう。ポイントは3つあります。
①適度な寸法
座面が高すぎたり奥行きが深すぎるイスはよくありません。高さはむしろ低めのほうが無難です。
②掛け心地
体圧分布で、体の鈍感な部位(お尻)に大きな圧力がかかり、鋭敏なところ(太ももの裏側)には小さな圧力がかかるように設計されているものがおすすめです。
③姿勢
背もたれの形と座面の傾斜が体の姿勢に大きく関係します。例えばソファの場合は、座った時に上半身と下半身の角度が105度以上になり、上半身は腰の部分がしっかり支えられて背骨がまっすぐに伸びた感じになるものが良く、お尻が深く沈み込んで猫背になるソファはよくありません。
私たちがイスを選ぶ際、座り心地の良いイスを選ぶため、座面の柔らかさを重視する傾向があります。しかし、脳の研究で有名だった故・時実利彦教授によると、柔らかいイスに座ると脳の働きが鈍くなると言われ、また、柔らかすぎるイスは作業のためには良くないと言われています。
固い草履を履いて歩くと疲れにくいですが、柔らかい草履を履くとすぐに疲れてしまうと言われていますが、それは圧力を受ける面が不安定だと、姿勢を正しく保とうとして無意識のうちに筋肉が働くためであり、イスについても同じことが言えるのです。
 
-イスのプロトタイプ
先ほど、イスに座る際の姿勢を良いイスのポイントとしてあげましたが、厳密に言うとどのような目的でイスを使うかによって条件は変わってきます。
仕事をする際に使うイスとソファなどのようにくつろぐ場合のイスとでは、当然条件は変わってきます。この、イスを使う目的に応じてイスの支持面をまとめたものが「イスのプロトタイプⅠ~Ⅵ型」です。
では、イスのプロトタイプについて詳しく見ていきましょう。
・イスのプロトタイプⅠ型
「椅座姿勢のうち作業を主としたイスの支持面を示す。腰部を支えて、姿勢を正しく保たせるように工夫されているが、休息性については考慮されていない。」(株式会社ガイアブックス発行 新装 インテリアの人間工学 / 小原二郎監修 渡辺秀俊、岩澤昭彦著 155頁より抜粋)
・イスのプロトタイプⅡ型
「ゆるい作業を主としたイスの支持条件を示したものである。背もたれは作業中は腰部を支えているが、軽休息の姿勢を取ると胸部も支える。」(株式会社ガイアブックス発行 新装 インテリアの人間工学 / 小原二郎監修 渡辺秀俊、岩澤昭彦著 156頁より抜粋)
・イスのプロトタイプⅢ型
「軽休息と軽作業の両用に適したイスの支持条件を示したものである。腰部と胸部を支持しているが、作業姿勢を取るときは胸部の支持はなくなる。」(株式会社ガイアブックス発行 新装 インテリアの人間工学 / 小原二郎監修 渡辺秀俊、岩澤昭彦著 157頁より抜粋)
・イスのプロトタイプⅣ型
「軽休息のためのイスの支持条件を示す。ゆったりした会議の時に使うイスに適している。テーブルと組み合わせて使うことが多い。」(株式会社ガイアブックス発行 新装 インテリアの人間工学 / 小原二郎監修 渡辺秀俊、岩澤昭彦著 158頁より抜粋)
・イスのプロトタイプⅤ型
「休息用の条件を示す。上体の背後への傾斜が増して、座面と外面の開角が110度を越すと枕が必要になってくる。自動車の後部座席にはこのタイプが使われる。ヘッドレストと組み合わせて検討する必要がある。」(株式会社ガイアブックス発行 新装 インテリアの人間工学 / 小原二郎監修 渡辺秀俊、岩澤昭彦著 159頁より抜粋)
・イスのプロトタイプⅥ型
「深い休息を求めるイスの支持条件を示す。座面と背面の開角が120度を越える場合が多いので、枕と足掛けが必要になる。」(株式会社ガイアブックス発行 新装 インテリアの人間工学 / 小原二郎監修 渡辺秀俊、岩澤昭彦著 160頁より抜粋)
 
-イスの選び方
いかがでしたでしょうか?
SOGOKAGUでもイスやソファの開発をする際に、この、イスのプロトタイプを参照しています。作業をする際のイスのプロトタイプⅠ型では、座面の高さは男性で430ミリとなっていますが、SOGOKAGUでは450ミリを基本にしています。業務用の場合、基本的に靴を履いて座ることが多いこと、また日本人の平均身長が伸びていることなどを考慮しています。また、休憩に使うイスのプロトタイプⅢ型~Ⅴ型程度の場合でも座面の高さは430ミリ程度で、クッションもやや固めに設定することが多いです。これは、座面が低すぎたり、クッションが柔らかすぎて、お尻が沈み込むようなソファでは立ち上がりにくい設計になり、不特定多数の人が使うコントラクト空間の用途に合わないためです。ただし、SOGOKAGUでもウルクスウィロウのように柔らかさを重視した商品開発も最近はするようになり、昨年発売したケイトのようにイスのプロトタイプⅥ型に当てはまるような、ゆったりとしたラウンジソファも最近のコントラクト空間では使われるようになりました。最近ではパブリックな空間でもホームユースのような快適性が求められ、公共空間と家庭との垣根がなくなってきていると感じます。
家具を作っている側からお話させていただくならば、イスを選ぶ際は、ショールームなどで実際に座り比べられることをおすすめします。座り比べることで、先程のイスのプロトタイプのように、見た目は似たようなイスでも実際には座り心地は全く違うということはよくあることです。イスは1日の中でも長時間座るもの。人間工学の知識を頭の片隅において、あなたに最適なイスを見つけてみてください。

参考文献:株式会社ガイアブックス発行 新装 インテリアの人間工学 / 小原二郎監修 渡辺秀俊、岩澤昭彦著