Design to Shape

多様性に寄り添ったラウンジチェア
Edition No.10:VOGEL
フォーゲルの秘密
フォーゲルは2024-25カタログを代表する商品の一つとして開発されました。また、2016年から取組んでいる京都工芸繊維大学 製品デザイン計画研究室との産学連携で5つ目の商品化となったプロダクトでもあります。SOGOKAGUが得意とし、日々研究を続けているモールドウレタンを素材としたラウンジチェア。今回はそのフォーゲルの魅力に迫っていきたいと思います。
多様性に寄り添う家具を
京都工芸繊維大学との取り組みは、毎年テーマを決めて取り組んでいます。当然のことながら大学なので、毎年学生さんの入れ替わりがあります。ですので、基本的には1年を通してひとつのテーマに取り組み、次の年にはまた新たなテーマを設定するといった感じで、1年サイクルでプロジェクトを回しています。フォーゲルを開発した2022年は、SOGOKAGUから「多様性に寄り添った家具、変化に対応できる柔軟性のある家具」を課題として学生さんに投げかけました。今、私たちを取り巻く生活環境は目まぐるしく変化していると言っても過言ではありません。インターネットの普及により2000年代に入って「ニューノーマル」という言葉が生まれ、リーマンショックや東日本大震災、そして新型コロナウイルスの流行によって私たちの生活様式や価値観は大きく変わることになりました。そういう時代だからこそ、人の行動に寄り添い、様々な価値観に寄り添うことのできる多様性を持ったプロダクトが必要であると考えたのです。

THE PROCESS

イスの「機能」と「座り方」の研究
京都工芸繊維大学の学生さんたちが最初に着目したポイントはイスの「機能」と「座り方」でした。なぜその機能があるのか、なぜその座り方をするのかを深堀りすることで、その目的に対してまた違う機能や座り方の提案ができるのではないか、と考えました。例えばイスに座る目的としては「人を待つ」、「会話をする」、「くつろぐ」といったことが考えられますし、座り方についても「横向きで座る」、「姿勢良く座る」、「体勢を崩して座る」といった様々な座り方が考えられます。そしてこれらの目的や座り方は、人の感情にも作用していると考えました。例えば、目上の人を待っている場合などは座り方としては姿勢が良くなりますし、緊張した感情になります。また、自宅でくつろいでいる時などは少しくだけた座り方で、リラックスしているでしょう。そしてこれらのイスに座る目的や座り方、そしてイスに座っている時の感情の掛け合わせをすることで、多様な座り方や多様な空間を提案できるのではないか、と考えたのです。

翼を広げる鳥をモチーフに
これらのイスに座る目的や座り方を深堀りする中で、学生さんからいくつかのデザイン案が出され、最終4案まで絞られました。フォーゲルもそのうちの一つですが、開発当初の商品名は「WING(ウイング)」。その名の通り、翼を広げた鳥をモチーフとし、多様な使い方ができる天板付きチェアとしてデザインされました。座る目的としては、カタログのイメージのように、例えば空港のラウンジで天板にドリンクを置いて楽しみにしていた旅行への旅立ちを心待ちにするシーンや、図書館でひとりお気に入りの本を片手にリラックスしているシーン、また、小ぶりなラウンジチェアなので、自室で天板にコーヒーなどを置いてゆっくりと過ごすシーンなどを想定しました。

モールドウレタンだからこそ生まれた造形
SOGOKAGUの提案する空間は多岐にわたります。パブリック、プライベート、カジュアルシーン、フォーマルシーン、そのいずれにも溶け込むようなアイコニックで汎用性の高い商品を目指しました。フォーゲルが並ぶ姿は、まるで小鳥たちが集うような丸みを帯びた美しいバックビューで、アームの背中から天板にかけてのシャープなエッジは、モールドウレタンだからこそできた造形です。さらに、天板とモールドがシームレスに繋がる造形を求めて、モールドウレタンの形状と実際に生地を張った際の形状を細かく確認しながら、天板のR形状を細かく設定しています。人が座った時に背骨に沿った座面設計や、人が手を置いた時にわずかにはみ出る事によりテーブルとしての用途を示唆するアームの設計など、細かいところに気を配っています。「座る」だけではない「置く」「見る」「使う」「感じる」といった人に寄り添ったプロダクト。フォーゲルは、自然(じねん)とそこにあったかのように空間と共生しながら、生物の営みと溶け込むような感覚を覚える新しいラウンジチェアです。